ノベル版はじめました!
3Dアクションシューティングゲーム(TPS&FPS)として開発作業に着手しているProject966ですが、きちんとした設定を書いておこう…と思ったら、なんだか筆が(?)すすんでしまい…けっこう骨太な小説くさいものができあがりつつあったりしちゃうので、これはもうノベル版966Universeとして発表しちゃえ!と勢いづいちゃいました。
最終的には、ひとつのノベルとしてまとめなおし、DLサイトで商品化しようか、などとも考えています。また、いわゆる「ノベルゲー」として焼きなおすこともできそうです。それ以外にも「NAN久々のネット小説」として捉えていただくことも可能ですので(笑)、いろんな意味でお楽しみいただけるのではないかと!
なおいつものお題目・・・として、本編はフィクションであり、登場する固有名詞、人物名、団体名などは、実在の団体名、人物名とはかかわりのないものです。以上!それでは、序章です。
シーンマイナス1:『ゲームじゃ、ないんだ…。』
警報がけたたましく鳴り響き始めてから、異変に気付くまでの間、エクレールは友達に組み上げてもらったLANパーティ用の自作デッキで、民生用仮想現実空間…つまりサイバースペースに接続しながらオンラインゲームに没頭していた。
そこは、精巧に組み上げられた旧時代の地球の都市だったり、想像上のスペースコロニーや地球型惑星、あるいは空想世界の魔法と妖精の国、天国や地獄など、ありとあらゆる時代・文化・文明がごちゃ混ぜの世界でもある。サイバースペースは、ロールプレイの場所であり、第二の生活拠点であり、もうひとりの自分や時には真実の自分が暮らす世界でもある。
度重なる事故の影響で、体感システム、いわゆるフィジカル・フィードバックには厳しい制限が設けられ、エンターテイメント用のサイバースペースには軍用・企業用・研究機関用ほどの<強い>フィードバックコードは存在しない。それでも、簡単な接触感や擬似重力は十分に感じることができたし、ローカルで<その他の感覚コード>を発生させ、神経接続に割り込ませるというチートデバイスは存在する。
そうした<違法ではない違反ディバイス>の代表は、痛覚と快感に作用するタイプの接触感覚増幅カードで、エクレールのサイバースペースデッキには、最初からLipzoneと呼ばれる高性能カードが挿入されている。
通称<ロスユニ>として知られるLost Universeの世界は、荒唐無稽なSF的ミリタリー世界。エクレールはそこで、恒星間宇宙船の航路を守るガーディアンとして様々な任務に赴く。
今週はイベントウイークの初日で、大規模な<戦争状態>を想定したサーバー間トーナメントが開催されているため、接続者数も膨れ上がっていた。
エクレールの所属する第6サーバー<リコ>は、比較的温厚で専守防衛的プレイスタイルを持つプレイヤーが多く集まる場所であり、同様の嗜好を持ついくつかのサーバーと同盟関係にある。一方、強い攻撃性を持ち侵略戦争をこよなく愛するプレイヤーが集まるサーバーとして<キリク>がロスユニ世界の強豪として名を馳せているが、リコのゲームマスターは同盟サーバーミーティングでキリクに対する防衛ラインの展開を提案し、大規模な同盟部隊による待ち伏せ作戦を展開していた。
エクレールのアバターである<えくれあ>は、この作戦の中でステルス装置を備えた小型宇宙船で敵の拠点のひとつに潜入し、おそらく使用されるであろう違反外装の偽装を解除したり、無人BOTの<裏切りプログラム>を混入させるなどの陽動作戦に就いていた。基本的に地味なミッションだが、成功報酬は高く、戦闘没発時には大きな効果を出せる。エクレールはこの手の緻密なミッションが好きで、自ら志願してこの任務に臨んだのだった。
数名の仲間とキリク側の宇宙要塞<スクリーミング・フィスト>に取り付き、侵入したエクレールの8人からなる小隊は、そのまま宇宙港に向かうアーケードを歩いていた。基本的に、戦闘状態にならなければ見た目だけでそれが敵であるかどうかを判別することはできない。逆にいえば、今誰かがミスをして戦闘状態になってしまうと、敵陣の真っ只中で小隊は孤立することになる。エクレールは緊張を隠して、キリク側サーバーの住人たちを観察していた。
「なんてうかアレですね、不気味なひとが多いですね」
と、アカイヌが笑う。
<きみもじゅうぶんおかしいけどね>
と思いながら、えくれあは笑い返した。
えくれあのチームメイトであるアカイヌは、キャラ名が示すとおり、赤い服にケモノ耳が特徴的な外装で、おまけに手足には<肉球>がある。
それは、地道なソロ用ミッションで入手したアバターの遺伝子変異コードを使って、数千回に及ぶ試行錯誤でやっと入手した<身体的特徴>なのだが、獣人種族でもないのに肉球を欲しがるプレイヤーは稀すぎて、オークションでは捨て値しかつかなかった。
<悪魔の羽>や<悪魔の尻尾>、<蛇の眼>や<イカの頭>など、およそリコサーバーでは見られない外装を持つプレイヤーが闊歩するキリクサーバー側の住人は、基本的に好戦的でケンカも絶えない。発覚すればアカウントを削除される違反外装やDUPEなどの規約違反も辞さない連中が集まっているのだ。
「とりあえずBOTを捕まえて裏返しちゃおうか」
えくれあが発案すると、ささやきチャットに賛成票が集まる。
いわゆるNPCであるBOTは、宇宙要塞のあらゆる場所にいるが、ミッションを受託することで<雇う>ことができる。BOTを動かしているのは、学習機能つきの簡易AIプログラムで、一緒にミッションをクリアするごとに<関係性ポイント>が増加し、好感度や不満度が上下する。
裏返す、というのはこのポイント制度を利用して敵側BOTの好感度をMAXまで上昇させたあと、レアアイテムである<裏切りチケット>を渡して、自陣のBOTとして寝返らせることを指している。
小隊はさらに細かく分散すると、二人ずつのペアとなって小規模ミッションを受託し、BOTの好感度を上げる作業に没頭していた。
アカイヌと一緒に<見上げる丘>ミッションに出発して10分後のことだった。
突如、サイバースペースの<景色>が乱れはじめ、続いて音声が不鮮明になり、時にはループした。
<?>
えくれあの意識ではなく、エクレールの思考が、なんらかのネットワーク障害を思い起こさせた。もしかしたら、キリクサーバーの違反ユーザーによるクラック行為やDOSアタックかも知れない。だけどそれなら、すぐに復旧するはず。
ぼやけて幾重にもぶれている視界の中で、アカイヌが丘の上からえくれあを見下ろしている。えくれあから見るアカイヌの姿はぼやけているけれど、動作は正常そのものに見える。すると、これはエクレールのローカル問題なのか。
再びアカイヌを見ると、彼の背後には小型だけど強暴なナナイロガニがいて、アカイヌはまだ気付いていない。警告をしてあげたいのだが、えくれあの声は出ない。レオという名前の屈強そうな体つきをしたBOTはまだ<なついて>いないので、呆然とそれを見ている。役立たずのNPCめ!とエクレールの思考が罵声を浴びせたとき、接続が完全に切れた。
「…」
予告もなく神経接続が中断されると、サイバー酔いでしばらくフラフラする。赤い光の点滅。騒々しい警告音。平衡感覚がおかしくなっていて、まるで戦闘状態になった小型宇宙船の艦橋にいるみたいな感覚。
「なんだろう…」
こめかみに固定した<脳バンド(と呼ばれている)>を外し、両手の<手袋(と呼ばれている)>をはがすのにてこずりながら、エクレールは部屋の中を見回した。壁の上半分に埋め込まれた照明ボードの明かりが消え、天井に備え付けられた非常灯が赤く輝き、点滅している。鳴り響いているのは非常訓練で聞き覚えのある警告音だけど、一段とボリュームが大きいようだ。
サイバースペースデッキのモニタには異常の兆候がない。
ネットワークからニュースや情報を仕入れようとしたが、エラーが出てつながらない。やはり接続障害があるようだ。しかしこの部屋には、それ以外に外部の様子を知る方法がなかった。
と、エクレールたちが住む住居ブロックで物音がした。
「母さん?」
研究室勤めの母・トミコはどうしているだろう。
もしかしたら緊急事態でここに戻っているかも知れない。足元に散乱するコネクターを踏みながら、エクレールはリビングへ繋がるドアへ急いだ。
「…な、なんだって!?」
住居内のテレビも電話も通じない。呆然としながら、エクレールは受話器をフックに戻した。警告ランプの原因も、警報音の理由も、なにも分からない。ただ、ものすごく異常な事態であることだけは、はっきりと分かる。
母の姿もなく、状況はまったく分からなかった。
仕方なく住居ブロックを出たエクレールが見たものは、無数の血痕と肉塊が転がる回廊の様子だった。
「こ、これは…」
サイバースペースの戦場では、よくある光景。だけど、今エクレールが眼にしているものは、それとは違うものだ。まったく異質な、日常が壊れた景色。途方もなく濃密な恐怖が空気に充満してる。むせ返る血の匂いで鼻の奥がおかしくなる。あくまで<グラフィック>の赤とは違う、本物の肉が落ちている血だまり。色が黒ずみ、ドロドロしているのは、血が凝固しかかっているからだ。なにか途轍もなく強大で凶暴なモノが、暴れた痕跡。
<母さん…>
母の身を案じたのか、それとも母にすがりたかったのか、エクレールの脳裏にはそれだけがあった。とにかくここにとどまってはいられない。
一歩進もうとすると、ねばねばした血が靴の裏に張り付いて嫌な音をたてた。
比較的損傷の少ない<ひとだったもの>が倒れている。衣服からいって、それはマサオだ。12歳のマサオは自分が年上だという理由だけで威張り散らすイヤなヤツだったけれど、今は首から上がなくなってしまった。
マサオらしき死骸から眼を逸らし、さらに進んで行くと、胴体や手足の残骸は落ちていても、首から上はひとつもなかった。
「フェイス…イーター?」
ヤスリで背骨を削られるような悪寒がエクレールを包んだ。
それは、人間の顔が大好物という恐ろしい怪物。
いつかホラー映画で見たそれは、エクレールのトラウマとなっていた。
<Minamo>というタイトルがついたゾンビを題材にしたその映画は、低予算ながら秀逸な出来で評判になり、怖いもの見たさのオーディエンスを虜にした。思い出す。エクレールは、9歳のときにサイバースペースシアターでそれを見た。目の前に迫る映画クリーチャーの恐ろしさに、失神して強制接続解除されたのだ。
<でも、あれは映画だし…>
しばらく歩いたせいで、血のりは取れたはずなのに、それでも靴はよく滑った。きっと血液に含まれる脂がとれていないのだろう。
何度も転びそうになりながら、エクレールは廊下を進む。ドアが開いたままの住居ブロックのすべてから、血の匂いがしていた。生存者がいないか調べたい気持ちはあったけれど、部屋を覗く勇気が足りなかった。それに、まだどこかに化け物が隠れているかも知れない。
映画Minamoのミナモとは<水面>という意味だそうだ。
水面に広がる波紋のように、恐怖が伝播していくことをイメージして、映画のタイトルになったのだという。
ゾンビを題材にしたどの映画でも同じことだが、ゾンビ、いわゆる不死人(アンデッド)は、ウイルスや魔術や呪いでもともとは人間だったものが変異して人間を襲うようになる。ゾンビの材料はなんでも構わない。犬ゾンビやその他の家畜型動物ゾンビはすぐに思いつくが、ノミゾンビでもクジラゾンビでも構わない。
Minamoが面白かったのは、さらにゾンビ同士が融合したり進化したりして、ある種の環境適応を果たし、特殊な性癖や行動を示すこと、さらに見た目が、よくできた<デザイン>をされていたことだった。
ロスユニ同様のサイバースペースオンラインゲームでも、ゾンビが登場するタイトルはいくつもある。さらに、カルトとして主人公がゾンビというキワモノも存在し、ゾンビ育てゲーやゾンビ恋愛シミュレーション、ゾンビ世界征服などというマイナーゲームにも意外なほど根強い人気があるのだ。
どこもかしこも赤い警告灯と非常灯が照らし出す回廊を進むのは大変だった。主電源が落ちていて、非常電源しか供給されていないのだろう。
「もうすぐだ」
ゲート11を過ぎれば、居住区からメイン研究ブロック、宇宙船発着デッキ、エネルギープラントなどに通じるジャンクションに抜けられる。
通常、ゲートは閉鎖されているが、ID認証を通過すれば非常モードでもゲートの開閉は可能だった。
<よし、ちゃんと作動する>
巨大なゲート脇に設置された網膜認証は、完全に電力供給が停止しない限り作動する。しかし、ゲートを開ける電力は落ちているので、個別ゲートを開閉するための手動ハンドルを回さなければならない。
「よっと…」
黄色い三角マークがプリントされたハンドルボックスの樹脂蓋を叩き壊し、エクレールは折り畳みハンドルを展開する。ロック解除されているのでハンドルは素直に回ってくれるはずだ。無数に分割されたゲートの1区画をこれで開閉することができる。
クランク式のハンドルを回すのに、それほど大きな力は必要なかった。ギアの関係なのだろう、かなり回転させないとゲートを構成するシャッターはなかなか開いてくれないのだが、それほど大変な作業ではなかった。
<ここに保安基地があるよね>
そこには訓練された保安部員がいて強力な武器があり、高出力のバッテリー式無線機や無人ホイストによるコロニー内監視システムの制御コンソールも備わっているはずだ。
「よし」
例のごとく暗がりに赤い照明の点滅が眼にうるさかったけれど、ゲートを背後に10メートルほど進むと、保安基地の出入り口があった。
大した運動をしたわけでもないのに、エクレールは息切れをしていた。ひどい緊張と不安が、バイタルを悪化させているのだ。
<まずいな…眠くなってきちゃった>
どこでも眠るエクレールの性癖は、いつも周囲を驚かせる。場所も、状況も関係ない。わざわざ自分で選択した軍事教練の初日に、教官の訓示を聞きながら居眠りしたこともあった。
果たして…エクレールは自分以外の人間の<顔>を、久しぶりに見ていた。
「……」
声は出ない。悲鳴も、泣き声も出ない。
頑丈な重金属で出来た保安基地の中には、20人ほどの保安部員がいた。しかし彼らは、その強力な装備で互いに殺し合い、全員死んでいた。
恐らく、同士討ちになって殺し合いをしたのだろう。
なぜ?
エクレールにはもう答えが分かっていた。
彼らは、仲間の中に敵が紛れていることを知っていたか、疑ったのだ。結果は、どっちでも同じだろう。とにかく、そういう疑心暗鬼がパニックを生み、誰か一人が仲間を襲い、それが連鎖した。
胸に大きな穴が開いた保安部員の隣で、エクレールは脱力してしゃがみこむ。大きな扉の上方には、小型宇宙船ハンガーのフレームが連なっているのが見えた。その幾何学的な繰り返しはエクレールの脳裏にサイバースペースの宇宙要塞を思い出させる。
<こんなことなら、ずっとロスユニにいたほうが良かったのに…>
ひどい眠気がエクレールを襲い、血の匂いも赤い警告灯も気にならなくなる。相変わらず鳴り響くサイレンにも慣れて、むしろ心地よいくらいだ。
「ゲームじゃ、ないんだ…。でも今は…すごく、眠いよ…」
それ以上、エクレールは目を開けていることができなかった。
つづく…
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Comments:2
- 犬の人 10-05-21 (金) 22:34
-
ナナイロガニー!
- NAN 10-05-27 (木) 21:32
-
>犬の人
/
アカイヌは物語後半でちょっといい役どころをさせようと思っていますヨ。
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